高熱伝導ゴム

チタン並みの熱伝導率を持つ、軽く・薄く・柔らかい放熱材料

単層カーボンナノチューブ/炭素繊維/ゴム複合材料 写真
図1:単層カーボンナノチューブ/炭素繊維/ゴム複合材料(A4サイズ)。自在に曲げることができる。

近年の半導体集積回路(LSI)では、搭載されている各デバイスの小型化や高速化が進み、その発熱量も大きくなっています。これによって、

  • 温度が上昇し本来の性能が発揮できなくなる
  • 加熱・冷却の繰り返しによって熱ストレスが生じ、接合部の破損の原因となる
  • デバイスの寿命が短くなる

などの問題が生じます。LSIを冷却するためには、熱を伝えやすい金属製の放熱器が使用されますが、熱源であるLSIと放熱器はどちらも硬い素材でできており、そのまま接触させると間に断熱層となるわずかな空隙が生じます。効率よく冷却を行うには、両者の間に薄くて柔らかい高熱伝導性材料 (TIM:Thermal Interface Material)をはさむ必要があります(図2)。

高熱伝導性材料の重要性 イメージ図
図2:TIMの重要性。(左)TIMなしの場合、熱源と放熱器の間に微小空隙が生じ、熱が伝わりにくい。(右)TIMありの場合、熱源から放熱器へ効率よく熱が伝わる。

熱伝導は、電気伝導とちがい、熱エネルギーが材料全体を伝わっていく現象なので、熱伝導率の低い高分子を基材としたTIM複合材料の熱伝導率を高めるためには、熱伝導率の高いアルミナや窒化アルミナなどの添加剤(フィラー)を、材料全体に大量に混ぜ込まなくてはなりません。

近年注目されている熱伝導性フィラーとして、炭素繊維(CF)があります。特にピッチ系のCFは約1000 W/mKという高い熱伝導率をもっており、複合材料の熱伝導性を大幅に向上させることができます。しかし、CFは硬質で直線性が高く、成形粘度の上昇や脆化や硬化の問題や、さらにTIM用途には最も重要な、面に垂直方向の熱伝導率が向上しないなどの課題があり、改善が求められています。

一方、同じ炭素材料で高い熱伝導率をもつ、スーパーグロース法で作製した単層CNTは、直径が3 nm程度とCF(直径10µm)より細く、長さは数mmに達し比較的自由に曲げることができます。そこで、これらの異なる材料の特徴を生かして高熱伝導ゴムの開発を試みました。

まず、単層CNTの長さを保ちながら、網目状に広がった嵩高いネットワーク構造になるように、特殊な方法で分散しました。そこにピッチ系のCFおよ び母材であるゴム材料を加え、均一に混ぜ合わせ、フィルム状の成形体を作製しました。フィルムの厚さは100µmから2000µmまで調製可能です(図 1)。

さらに、CFや単層CNTの組成をさまざまに変えながら試料を作製し、熱拡散率、密度、熱容量を測定し、それらの結果から熱伝導率を決定しました。 例えば単層CNTを4重量%、ピッチ系CFを18重量%を含むフッ素ゴム複合材料の場合、面内方向で25 W/mK、面に垂直方向で2 W/mKの熱伝導率を示しました(フッ素ゴム単体の熱伝導率は0.2 W/mK)。この熱伝導率はチタン(17 W/mK)やクロム鋼(19 W/mK)を上回り、アルミナ(29 W/mK)にせまる値です。

比較のため、CFのみを20重量%入れた試料の熱伝導率は、面内方向では約5 W/mK、面に垂直方向では0.2 W/mKでした。約5重量%の単層CNTを添加しただけで大幅に熱伝導率が向上したことになります。また、単層CNTではなく多層CNTを添加した場合、 熱伝導率は半分以下にまで低下しました。

この高熱伝導ゴムの構造を観察すると、CF間に嵩高い単層CNTネットワークが入り込んでおり、単層CNTがCFの熱伝導を橋渡しすることで高い熱 伝導性が発現していると推測できます。また、単層CNTを加えると、加えない場合に比べてCFが複合材料中に均一に分布していることも明らかになりまし た。単層CNTネットワークが複合材料中に均一に分布するため、面に垂直方向の熱伝導も向上しました(図3)。

複合材料中の単層CNTネットワークの役割 イメージ図
図3:複合材料中の単層CNTの役割(イメージ図)。(上)炭素繊維のみ。(下)単層CNTを加えた場合、複合材料中に広がるネットワークが熱伝導率を向上させる。

 今回開発した高熱伝導ゴムでは、同様のスペックをもつ従来の複合材料に比べて、熱伝導性フィラーの分散量を1/2から1/3に抑えることができま した。そのため、材料の脆化や硬化の影響が小さく、母材が本来もつゴム物性を保つことに成功しました。また、図4に示すように、今回開発した高熱伝導ゴムは同様の熱伝導性をもつ材料に比べて密度が低いため、軽量化も期待されます。

今後、スーパーグロースCNTと様々な炭素材料・金属材料との複合化により、さらなるTIMの開発に努め、最終的に100 W/mK以上の熱伝導率をもつ材料の開発を目指します。また、パートナー企業を募集し、実用化にもつなげていきたいと考えています。

様々な物質の熱伝導率と密度の比較
図4:各物質の熱伝導率と密度の関係。本材料は低密度・高熱伝導率という特徴を持つ。

なお、この研究はNEDO「低炭素社会を実現する革新的カーボンナノチューブ複合材料開発プロジェクト」の一環として行われました。

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