声~日々これ研究~バックナンバー

中国の研究者と共に描く未来

2018年8月29日

中国の勢いを目の当たりにする出来事もありました。北京大学の重鎮である刘忠范(Zhongfan Liu)先生からお招きをいただき、ごく少人数の外国人研究者が先月立ち上げられたばかりのグラフェンの研究施設BGIを訪問しました。

私は北京大学内に研究センターができたのかと思っていたのですが、私たちの乗ったマイクロバスは北京大学を離れてどんどんと進み、ようやく工業団地まできて停まりました。工業団地の大きな建物1棟が丸ごとグラフェンの研究開発施設になっていました。北京市、北京大学、そして民間企業という産官学が結集し、グラフェンの実用化研究をここで進めるという取り組みだそうです。建物一階の展示室は日本の大手自動車メーカーのショールームの様で、その規模に圧倒されました。よくよく内容や仕組みを聞いてみると、我々が日本でカーボンナノチューブの実用化研究をしているのと瓜二つだと感じました。ただ規模や勢いが桁違い。凄いなぁと心から感心したのです。

この中国の勢いを目の当たりにして、これからの戦略として対中国ではなく、中国といかに仲良くやっていくかということを考えなくては世界のなかで生き残っていくのは難しいな、と考え方を大転換しました。せっかく中国の重鎮の先生方と非常に親しくさせていただいているので、今後はこういった関係をもっと強化していきたいと思った次第です。幸いなことにNT18中に、これから中国で開催される二つの学会の招待講演の依頼をいただいたので引き受けました。これで今年は都合4度中国に出向くことになります。

畠 賢治

北京石墨烯研究院(BGI Beijing Graphene Institute)

http://bgi-graphene.com/


中国の若手研究者のこと

2018年8月16日

中国の北京で開催されたNT18の招待講演を引き受けて出席してきました。NT18で何よりも印象に残っているのは会議の内容そのものよりも中国の恐るべき勢いです。カーボンナノチューブ(CNT)の研究は世界的にみても成熟期を迎えていて、日本や欧米ではぼちぼちといった感じで研究をしているわけですけれども、中国は全く違いますね。どの会場も人で溢れ、とくに若い学生たちが何百人という単位で会場に押し寄せ、皆すごい熱意で目をキラキラさせながら講演に聞き入っていました。

発表者の層も厚くなっていて、有名な大御所の先生から、中堅、若手まで非常に幅広い陣容なのです。発表される研究の内容も一昔前までは「う~ん、ちょっとなぁ...」というものもあったのですが、世界の研究をけん引するようなトップクラスの研究成果が相次いで披露されて、今やCNT研究の中心地は中国であるとの印象を強く持ちました。

現状でこうですから、研究者層の厚さを考えれば、日本との差はものすごい勢いで開いていくばかりでしょうね、ということが容易に予想できます。6月に平成30年版科学技術白書が公開され、日本の科学技術力の国際的な地位の低下がニュースになりましたが、中国の躍進という形でその事実を改めて目の当たりにした気持ちです。まさにこれからは中国の時代ですね。

セッションチェアを務める筆者。壇上は清華大学のFei Wei先生。

畠 賢治

NT18についてはこちらをご覧ください

http://nt18.org/


ドイツで日本の研究開発の未来へ思いを馳せる

2018年8月3日

ヒルト氏の見た目は典型的なドイツ人なのですが、ある意味で現実感のない世俗を超越したところでの話をしていて、その立ち居振る舞いはなんだか仙人のようでした。ドイツ人仙人のヒルト氏は我々との話しが終わると何処からか自転車を担ぎ出してきて、颯爽と去ってゆきました。そういうわけで短い時間のなかでいろいろなことを教えてくれたマイケル・ヒルト氏には大いに感謝しています。

日本でもこの数年間で労働力不足がにわかに社会問題化していて、仕事をするうえで人をどうやって集めるかは大きな課題になりつつあります。産総研の我々のところでもそれは同じで、職員、ポスドクからアシスタントまで、全ての段階で人が足りていません。また、あちこちで人が足りないという声を聞きます。それは企業の皆様の認識も同じようです。日本はこれから本格的に若者の人口が減ってくるわけで、今後ますます大きな社会問題になってくるでしょうね。

以前も話しましたが、課題があれば新しいビジネスチャンスありです。諸外国の場合は、移民を受け入れて、労働人口減という課題の解決をはかるということができそうですが、日本ではなかなかそういう方向での解決は難しそうです。日本では単純作業はロボット化やAI化という方向へ進むのではないかというのが私の予想です。が、それは、まぁ本当はどうでもいいのです。私個人としては優秀な人にぜひ産総研にきてもらいたいのです。皆さん、産総研で我々と一緒に仕事をしませんか?

畠 賢治


ドイツの課題と日本

2018年7月27日

いつもはふんぞり返るように椅子に座り機関銃のようにしゃべるコラリッツ氏が、親分の前では借りてきた猫のようにお行儀よく椅子に座る姿がなんとも可愛らしく記憶に残っています。そしてその親分の話を色々聞いていると、ドイツやフラウンホーファーが抱える課題は、日本で聞いたことがあるような話ばかりで、私が産総研の問題や日本の問題であると思っていたものは、もはや先進国ではどこでも共通の問題なんだ、つまりグローバルな課題なんだなぁとの認識を持ちました。

今回、コラリッツ氏を始めいろいろな方の話を聞くことができてとても面白かったのですが、ドイツも日本と同じで人口減による若年層の労働力不足が深刻な問題となっているそうです。一方で移民を受けれるかどうかで大いに揉めていたりもして、矛盾しているところもあるのですが、現場では完全に人手が足りていないのです。若者たちは超売手市場で、研究費があっても人が集まらなくて研究ができないということが、コラリッツ氏の悩みであって、「人がきてくれたら一生懸命おもてなしをしないといけないんだ。僕は、朝オフィスでみんなのパソコンの電源を入れて、コーヒーをセットしてあげて、みんなが辞めないようにご機嫌を取らなくちゃいけないんだ」と、本気なのか冗談なのかわからない口調で嘆いていました。実際に採用面接では若者のほうからいろいろ要求されるそうで、「私の趣味は〇〇なのですが、それがちゃんとできますでしょうか?」と逆に質問されたりもするそうで、そういった要望を満足させる条件が提示できないと、「じゃあ僕は違うところに行きます」と去られてしまうそうです。また、いったん雇用された方々も、企業からより高給で請われると去っていってしまうそうで、人集めというのは大変だといっていました。

畠 賢治


フラウンホーファーIPA副所長とのひと時

2018年7月20日

今回フラウンホーファーIPAを訪れた際に、コラリッツ氏がぜひに、というので、コラリッツ氏の親分でフラウンホーファーIPA副所長のマイケル・ヒルト氏にもお会いしました。そんな偉い人と会って何を話せばいいのかと心配しつつ面談に臨んだのですが、全くの杞憂に終わりました。蓋を開けてみたらヒルト氏の独演会が始まり、30分ぐらい延々と一人で話を続けていました。ときおりトランプ大統領の悪口を挟みながら(ドイツ人はトランプ大統領のことがあまり好きではないようです)、話は次々と転じました。ドイツを巡る国際情勢やドイツが抱える課題から、フラウンホーファーでの研究まで、ユーモアを交えながら、哲学的かつ思弁的な話をされていました。同席していた岡崎副センター長が後になって、「いやぁ、あの人、悟っちゃってますねぇ」という一言コメントを残したのが印象的でした。

畠 賢治


ドイツの学生とフラウンホーファー

2018年7月17日

大企業にいくと若いうちは当然丁稚奉公で、大きな仕事を、権限を持たせてもらって任せてもらうということはとてもできないのです。ところが、フラウンホーファーでは志と力があれば年齢は一切関係なしに、最大限の力で臨むという大きな経験をすることができるのです。なので、本当に力のある若い優秀な人たちから人気があるのでしょうね。

フラウンホーファーに就職した若者たちは定年までそこにいるつもりはさらさらなく、自分の技術をもってスピンアウトして会社を起業するか、もしくは何年かの経験を経たのちに企業に就職するということを前提にフラウンホーファーにきているのです。これは、どちらが良いとか悪いとかではないのですが、いったん産総研に就職したら定年まで産総研に腰を据えるつもりの日本の応募者とは全然違いますね。

フラウンホーファーの事例ひとつですが、ある意味そこではまさに日本と欧米諸国の大きな違いを見せつけられたように思います。日本ではなかなかイノベーションが起きないということが声高にいわれ、日本の経済が停滞・失速している大きな要因の一つとされていますが、このような一研究機関の仕組みからも本質的な違いとその要因が浮かび上がってくるのは面白いものですね。産総研が理系大学生の就職希望ランキングのトップ5に入る日がきたら、産総研もいっそう楽しいところになるでしょうね。そんな風にいつかなるといいですね。

畠 賢治


ドイツの人気就職先ランキングとフラウンホーファー

2018年7月12日

長年私が憧れていたフラウンホーファーから、しかも先方から請われてご縁をいただいているわけですから、これは本当にありがたいとことですね。実はフラウンホーファーのことを、以前産総研の未来を検討する長期ビジョン検討会のメンバーに入っていた時に調べたことがあります。その際に、フラウンホーファーがドイツ国内で学生の人気就職先ランキングのトップ5に入っていると知って愕然としたことを鮮明に覚えています。これは日本でいえば、理系学生の人気就職希望先としてソニー、トヨタ自動車、日立製作所、そして産総研が続くというようなイメージですので、産総研の現状では格段の違いがあるといえます。

そんなことがどうして起きるのかということがとても不思議だったのですが、この度フラウンホーファーに行って、いろいろと話を聞いてみてその謎が解けました。フラウンホーファーはパーマネントの職員の数は極めて少なくて、資金がくるとワーッと人を雇用して、プロジェクトが終わるとサッと解散という、ある意味非常に厳しい形で研究を営んでいます。逆にいえば、お金を持ってくることができれば、何でもありという自由さもあるということです。今回お会いしたコラリッツ氏はまさにそのいい事例ですね。

フラウンホーファーに就職すると、自分で資金を獲ってきて、人を集めて、プロジェクトを立てて、そしてその技術の実用化を目指すということを20代の若いうちからぜんぶ経験できるんですね。そしてたとえ失敗したとしても、まさにその経験が財産になるので、企業からは引く手あまたになるというわけです。

畠 賢治


フラウンホーファーIPAとコラリッツ氏

2018年7月3日

ドイツシュッツトガルトのフラウンホーファー生産技術・オートメーション研究所(IPA)に2泊3日の強行軍でセンターの方数名と出張に行ってまいりました。フラウンホーファーIPAにはコラリッツ氏という方がいて、もう10年以上、もしかすると私よりも長く、カーボンナノチューブの実用化をヨーロッパで強力に推進しています。

このフラウンホーファーIPAに産総研の方が1年間留学していたこともあり、昨年スイスに行った際にフラウンホーファーIPAに寄って、これから仲良く一緒に歩んでいこう!ということになりました。そのためフラウンホーファーIPAが主催するシンポジウムにセンターの主要なメンバーを連れて行ってきたという次第です。

フラウンホーファーは、皆さんご存知でしょうか?ドイツ最大の研究所で、今や職員の数は25,000人、産総研の10倍です。そしてまさに産総研と同じミッションを持っていて、産業界に役に立つ技術開発に注力している世界最強の研究機関です。産総研にとってみたらフラウンホーファーは大きな兄貴分の、目標にすべき研究機関で、もっと言えば憧れの研究機関と言ってもいいかもしれません。そんなフラウンホーファーのほうから「仲良くしようぜ」とラブコールがかかっているので、非常にありがたいことです。

フラウンホーファーIPAの親分のコラリッツさんはセルビア共和国出身の方で、かなりの苦労人と思われます。セルビアからドイツに来て、下克上を起こして、30代の初めには部門長になったという傑物です。また彼の講演が一風変わっていて面白いのです。カーボンナノチューブの話が半分ぐらいで、中国での車の生産台数やその利益の行方とか、サイエンティストというよりは、政治やMOTなどを理解しているイノベーターといった趣です。こういう方が部門長になっているというところからして、だいぶ産総研とは違う感じですね。いずれにせよ、長い関係になればいいと思っています。

畠 賢治


豪華な晩餐会の本当の意味

2018年6月19日

前回、前々回とお伝えしたように豪華な宴会が行われ、そのあいだは皆とても陽気で、まさに大宴会といった様子なのです。面白かったのは、宴会の最中賑やかしくしていた重鎮の一人の先生と帰りの空港までのタクシーで一緒になったときのことです。その先生はタクシーに乗るとプイっと窓の外を向いたきり、私とは一切会話もせず、宴会場での態度とは別人のようでした。

私は、この中国式宴会というのは中国においては非常に大事なものであって、恐らく人事権や予算権で中国アカデミアの会員が絶大なる権限を握っていて、このような宴会のなかで名を売っていかないと人や予算が回ってこないのではないかと推察します。若手の先生方は私だけでなく重鎮の先生方にも挨拶していました。まさに昔の日本の村社会で、皆それこそ必死の思いで宴会に臨んでいるので宴会が大いに盛り上がるということなのではないでしょうか。それぐらい気合の入った宴会でした。全部私の勝手な憶測ですから、秘密にしておいてくださいね。

畠 賢治


中国式宴会の流儀

2018年6月13日

中国の晩餐会は美味しい食事だけでなくて、お酒もそれを上回るものでした。それまで一度も飲んだことが無かったのですが、中国のウィスキーとも言える白酒(パイチュウ)を振舞われました。主催者が「畠さん、これ一瓶で150ドルもするんだよ」という代物です。アルコール度数は50%です。小さなお猪口が出され、これに注いで飲むのですが、次から次へと中国の研究者が、若手も重鎮も私の前に来て、「私は〇〇の研究をしている××と申します」と自己紹介して、「畠先生の研究の成功を祈ります」と挨拶します。私も「あなたの研究の成功を願っています」と返した後で、「乾杯(ガンペイ)」と言って、その50度のアルコールを飲み干すのです。

これをその宴会場にいた全員と繰り返すことになります。恐ろしいことです。どうもお酒が飲めない人や弱い人には手加減やいろいろと抜け道があったようなのです。ところが、私はついうっかり最初に何人か杯を受けてしまったばっかりに、「あ、この人は飲める人なんだ」と認識されてしまい、私の前には杯を持った人で長蛇の列が出来てしまい、すべての方と杯を交わすことになりました。

中国の方々は大いに喜んでくださったのですが、私は途中から記憶が一切ありません。しかし恐るべきは中国で、私の担当の博士課程の学生が廊下で待機していて、彼らは酩酊状態の私をホテルの部屋まで連れて行くことが任務なのでした。万全の体制であったので私は無事にホテルの部屋には辿り着きましたが、次の日の午前中は会議にでるどころの状態ではありませんでした。そして困ったことにすっかりお酒が飲める外国人として名を馳せてしまいました。恐ろしいことにこの噂は中国の研究者の間ですぐに広まってしまい、それ以後、私は学会に行くたびに中国の研究者軍団に「畠さん!今日も飲みに行きましょう!」、「中国の飲み会があるんだけど参加しませんか?」と熱烈なラブコールを受けるようになってしまったのです。まぁ行くと楽しいのですけれども、次の日の学会には参加できないので、非常に困っています。誰かお知恵をお貸しください。ちなみに東大のM先生は中国の宴会とそれに参加する人々を中国マフィアと呼んで、ブラックリストを作っているそうです(これも秘密にしておいてくださいね)。

畠 賢治


遠来の友のもてなし方

2018年6月5日

北京大学にあるホテルで学会の晩餐会が開かれたんですけれども、これがまた凄いものでした。ホテルの大ホールで通常の晩餐会が行われたのですが、招待講演者には事前に、密かに、大ホールに行かないで2階に来るようにとの通達がありました。「なんで?」と思いつつ2階に行くと、中国の歴史映画に登場しそうな豪華な門があり、それをくぐって歩いてい行くと、大きな円卓が3つほど据え付けられ、そのうちの一番奥の円卓のさらに一番奥の席から小柄な老人が煙草をふかしつつ手招きをしていました。

「え、なに、なに?」と思いつつその老人の隣に座ったのですが、その御老人はなんと初めて多層カーボンナノチューブの垂直配向体を合成した方でした。彼は中国アカデミアの会員で、この分野では中国の重鎮なのです。

このような感じで宴は始まったのですが、中国の主たる研究者と海外からの招待講演者という構成でした。中国の宴会というのはなんというか、本当に凄いですね。まさに中学の頃に習った漢詩『朋あり遠方より来る、また楽しからずや...』の世界そのままで、食事はと言えばかねてから噂には聞いていた満漢全席としか呼びようがないものでした。

大皿が次から次へと運ばれてきて、それを皆ちょび、ちょびっと摘まんでゆくのです。たとえば、魚一匹丸ごと蒸したの、揚げたの、焼いたのといった具合に、超豪華な品々が次から次へと、延々と運ばれてきます。しかもどれもこれも凄く美味しく、食べたことのないような料理ばかりで、恐れ入りました。

食欲魔人の私はお腹がはち切れんばかりになっていても、まったく見たことのない料理が運ばれてくると好奇心に負けて一口食べ、あまりのおいしさに二口食べ、そしてこの料理には二度と出会うことはなかろうと今生の別れを惜しんで三口目を口に運んでいました。結果はまぁご想像にお任せします。日本であの食事をしたら一体一人いくらになるのだろうと考えると身が震えて、考えただけで財布がやせ細ります。そんな素晴らしい宴会が学会の裏で密かに行われていたのです。皆さん秘密にしておいてくださいね。

畠 賢治


驚くことばかりの北京大学

2018年5月29日

北京大学はいろいろと驚くようなことばかりでした。

大学の敷地のなかに、日本で一流と呼ばれるホテルのような立派なホテルがあって、学会の関係者は皆そこに泊まっていました。食事も晩餐会もすべてそのホテルで行われます。なので、学会中に大学の敷地の外に出る必要がまったくないのです。というか、「外に出るな」と暗に言われていました。

これはすごいなと思う一方で、大学の外は北京大学の中とは違って食や水の安全などいろいろな安心・安全が担保されていないので、必然的にこのような方法になっているのではないかと思ったりもしました。

とはいえ、ホテルの食事はどれも美味しく、日本でも旧帝大あたりがそうなったらいいなぁと思いました。あるいは産総研とか、どうですか...?

いや、言ってみただけです。無理だということはよくわかっています。

畠 賢治


北京の学生

2018年5月14日

私は中国へ行く機会がなかなか訪れなかったのですが、2年前に北京大学の先生に請われて北京大学の化学科を訪問することができました。そこで世界中から材料化学のトップレベルの研究者十数人を集めた学生向けの一日限りの招待講演のみの特別シンポジウムが開かれたのです。私はその前日のチュートリアルも仰せつかり、特別シンポジウムに加えてチュートリアル3時間という講演をしました。

聴衆は北京大学と精華大学の材料化学に関心のある学生さんたちでした。驚くことに300を超える人数で、ちょっとした国際会議のようでした。そして、皆、非常に熱心に聴いていて、その情熱や熱意たるもの凄いものがありました。もし同じような講演を日本でしたとしても、多分集まる学生さんの数はその何分の一かでしょうし、学生さんの前で講演をして、そのように物凄く熱い眼差しを受けたことは残念ながらあまりなく、どちらかというと牧草地の羊の群れに話しかけているような気分になったものです。これは大きな違いで、今の日本と中国の若い世代の熱さの違いというものを端的に物語っているような気がします。

もともと中国は論文数が多く、「論文の数は多いけれど質が低いよね」と、言われていました。しかし、そのシンポジウムでナノカーボンの論文のインパクトファクターや引用数が日本に並んだという報告があり、2年後の報道の内容から推察するに、今では質でも中国が日本を上回っていると思われます。つまり従来から量では5倍から10倍くらいの差がついているので、掛け算をすればナノカーボン関連の研究でも桁違いの研究成果が中国から生み出されていることになるでしょう。そういう時代に入ったのだということが見て取れます。

畠 賢治


歴史、ふたたび

2018年5月7日

これまでの2000年の歴史のなかで、中国から、もっと広く言うと大陸から様々なものを学び、吸収してきたのが日本なのです。そもそも日本国が成り立つときに産業技術を日本に導入するということでは隣国に大いにお世話になっています。

応神天皇の時代には、朝鮮半島の三国の百済、高句麗、新羅と深い関係をもっており、百済国が滅ぶときに技術者である多くの秦氏が日本に渡来してきたのです。その数は日本書紀に「秦氏の弓月君が百済の百二十県の民を率いて帰化した」と記されています。秦氏は日本に鉄器、土木、養蚕、機織の技術をもたらしただけでなく、伏見稲荷大社や広隆寺などの創建も行っています。日本の科学技術の祖は百済から渡来した秦氏にありといってもいいでしょう。

このように日本の発展に貢献した秦氏ではありますが、朝廷であまりにも力を持つようになったために一部から疎まれ、朝廷(京都)から流されてしまったのです。その流された先の地が関東であり、恐らく古代の筑波であったのではないかと私は思っています。このように歴史を紐解くと、我々が大陸から様々なことを学び、そして今があるということが分るわけで、これからの時代はまたそういうことになって行くのではないかと思っています。

畠 賢治


破壊的イノベーションの震源地

2018年5月1日

前々回、前回と戦略が大事だ、日本は構造的に国の抱える課題を解決することが容易でない国だということを述べてきましたが、実は世界にはそういうことが全て出来ている国があります。それは中国です。以前は、私自身は中国の戦略というものに興味関心というものは全くなかったのですが、ここにきて私の中でその存在が急速に大きくなっています。中国は一党独裁で、党首がほぼ全ての実権を握っている(と、思われる)ということを活用して、戦略をトップダウンで一気に実施しているように見受けられるのです。しかも非常に賢く。

このような戦略をもってトップダウンで動く国とそうではない国とでは、世の中で大きな破壊的なイノベーションが起こる時に、非常に大きな差を生み出します。そして、今まさに破壊的なイノベーションが起きようとしています。それは、自動運転と人工知能の分野です。この二つが車社会のあり方を大きく変えて行くことは誰の目にも明らかです。しかし、それがどういう形で社会に実装されるのか、その最終的な形は、あまりにも色々な可能性があって誰にも分らないのだと思います。少なくとも、インターネットと同様の、我々が想像するよりも遥かに大きな社会構造の変革が引き起こされるのではないかと私は思っています。

そして中国がこの分野で戦略を持ってトップダウンで強力に進めてきていることを度々報道で目にするようになっています。もしかすると世界で一番早くに自動運転が社会基盤になる国は中国になるのかもしれません。そしてそのビジネスモデルは各国に輸出され、中国が自動運転の世界で覇者になるのかもしれません。中国がそういう形で世界の様々な分野で覇権国になったとしても日本として悲しむことはないのです。私は常々思っているのですが、これまでの2000年の間、日本が中国を科学技術や政治でリードしたことは、戦後の50年程の間しかないのですから、いわば当たり前の状態に戻るだけということです。

畠 賢治


今の国会に思うこと

2018年4月25日

ある用事で出かけた際に、時刻表も調べずに新幹線に乗ったものですから、乗り継ぎの田舎の駅でぽつんと一時間待つという粗相をしました。所在なく待合室でテレビを眺めていたところ、たまたま国会中継が放送されていました。その時画面に映し出されていたのは、あまりにも下らなくて全くフォローしていない「森友・加計問題」でした。国会の会期中はこのようなことを何カ月も議論するのでしょうが、この会議を一回開催すると一体幾らのお金が掛かるのでしょうか?何百人もの議員がいて、関連するスタッフの人件費や諸費用を積算すると、たった一日であっても掛かる費用は1億では全然足りないでしょうね、という感触です。何日もかけて議論するので、会議を開催するだけで何十億もの費用が掛かることになるということを計算してしまいました。本当にそれだけの価値があるのでしょうか?

そもそも国会というのは国の政治家である国会議員が集まって、議論する最高の場であるはずなので、一納税者としての私は、国会中継では前回お話ししたような少子高齢化や労働人口不足といった課題を日本国がどのように解決するのかが示されて、その是々非々を問うような議論を聞くことを期待するのです。しかし、国会中継でそのような議論を聞いた記憶はありません。その理由の一つには、国会議員にそのようなことを議論する力も能力もないことがあるのだと思います。

しかしそれは仕方がなくて、各国会議員が選ばれているのは、代表する選挙区の利益を最大にするために民から選ばれた人であるということで、そもそも国会議員一人ひとりが持っているミッション、目指していることがあって、国レベルでの戦略を議論するということは選挙中にはほとんど顧みられていない訳です。その辺りに日本国としての大いなる矛盾、すなわち自分では自分の課題を解決できないという構造的な矛盾を感じてしまいました。

畠 賢治


日本の課題と処方箋

2018年4月19日

今の時代、かつてなく戦略というものが必要になっているように感じています。科学技術やインターネットの発達により、必要とあれば世の中のありとあらゆるリソースにアクセスして持ってくることが可能になっているからでしょう。つまり、そのような非常に大きな自由度の中で物事を進めていくためには戦略というものが大事になるということです。

戦略というものは、基本的には何らかの課題を解決するために作ってゆくことが多い訳ですが、日本が抱える最大の課題の一つが少子高齢化でしょう。世界史の中で人口が自然減する初めての国に日本がなるそうです。人類が経験したことのない未曽有の危機が日本に迫っていると言えるかもしれません。この少子高齢化に伴って様々な社会問題がにわかに顕著になっています。この数年で労働人口の不足が様々な産業の律速になり始めていることは数々の報道から明らかです。昔から医療費の増大によって財政破綻が起こる、ということも言われていました。そして、高齢者が増えるということで、年金制度の破綻や高齢者の健康や生きがいの維持ということも社会問題になってきています。

さて、とある戦略を立てることに非常に長けている方のお話を聞く機会がありました。この方は、今の日本の課題を一気に解くようなソリューションを示してくださったのですが、その内容が、おぉなるほどとまさに目から鱗でした。それは定年制の廃止プラス年功序列の廃止です。この両方の廃止です。片方だけでは解決策になりません。それは、人がその能力に合わせて働き、企業がその人の能力に応じた給与を支払うようになるということです。六十、七十になる頃には若い頃と同じ様には働けないので、その時にできる仕事をやって、その仕事に見合った給料をもらい、逆に若い人はどんどん大きな仕事をして高い給料をもらうということです。つまり、全ての企業がプロ野球の選手を抱えるような会社になっていくということです。

人間にとって最も大きな生きがいは働くということで、働いているとより健康であるという調査結果もあるそうで、つまり、年を取ったら引退して、老け込んで病気になる、ということではなくて、身の丈にあった仕事で収入を得て、健康を維持して、場合によっては年金を受け取るのではなく納税するということです。そして、このような働き方が労働不足の解消にも一役買うのです。おぉ、日本の課題を一挙に解決できるんだ、これがまさに戦略だと感心したのです。ちなみに、この方はこういった戦略の実現を国に働きかけていてもいます。本当は国がこのような戦略を考えて実施しなくてはいけないのに、それができないのが今の日本の最大の課題かもしれません。

畠 賢治


普遍の愛

2018年4月2日

先日、ある方と会食をしているときに、その方のお子さんが小さいときに先天的な心臓の病気で入院していたと伺いました。彼によると、その病院には全国から心臓に病気を抱えた子供たちが集まっていて、そして悲しいことにどんどんとその子供たちが亡くなっていくという、そういうところだったというのです。ある日病院に行くと、昨日まで元気そうであった隣のお子さんが亡くなっているということが、よくある事となっているところだったそうです。

そして病院の子供たちには、親が毎日のように見舞いに来ている子供たちもいれば、親から完全に見捨てられてしまっていて、全く親が見舞いに来ない子供たちもいたのだそうです。彼が言うには、不思議なことに親が全く見舞いに来てくれない子供たちは亡くなり、親が一生懸命見舞いに来ていた子供たちは退院していったのだそうです。かくのごとく、人の愛というのは、人の生死さえも変えてしまう力を持つものなんだなぁと、大変心に残る話でした。

愛というと、少し口にするのが恥ずかしい言葉ですが、普遍的な愛というものはまさにこうして人と人の間をつなぎ、成り立たせていくものであると思っています。重い病にかかった子供を見守る親の愛に比べられるものではありませんが、私自身もセンター長に就任して以来、一緒に仕事をしている仲間たち、ご縁をいただいている方々が少しでも良くなるように、成り立つように、できるだけの愛を持って皆さんと接するように心がけています。それが本当に大きくて価値のある仕事を成し遂げるただ一つの方法なんだ、という風に理解しています。

畠 賢治


nano tech 2018とナノテクノロジー

2018年3月26日

毎年恒例になっているnano tech展への出展ですが、今年はCNT複合材料研究拠点(複合研)としてブース展示を行いました。複合研の上野氏の尽力で、日本ゼオンの後ろ側、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の斜め後方というなかなかいい場所で展示させていただきました。

nano tech展は世界最大のナノテクノロジーの展示会で、かれこれ17年続いていますが、私自身はスーパーグロース法を発表した翌年の2005年から参加させていただいています。その年には私は材料・素材部門でnano tech大賞をいただきました。それ以来13年間継続してずっと出展しています。

ここにくると世の中のカーボンナノチューブの研究やナノテクノロジーの動きが分るのです。といいますのも、年月の経過とともに出展者や出展の内容がだんだん変わってきているのです。当初はカーボンナノチューブの素材があちこちに展示されていましたし、カーボンナノチューブの発がん性が疑われていたころには、がくんと出展社数が減りました。中西準子先生が推奨の許容ばく露限界(OEL)値を発表してからはまた出展社数が復活したりと、なかなか面白いものです。

近年ではカーボンナノチューブの素材だけではなく、分散液や成形品の展示が多くなりました。ところが今年は状況が一変して、カーボンナノチューブに関連する出展は非常に少なくなっていました。カーボンナノチューブだけではなくて、素材に関する展示が全般的に減って、評価技術やプロセス技術、特に3Dプリンティングの出展が増えて、「ナノテクノロジーなの、そもそも?」と思わされる出展が増えていました。それだけナノテクノロジーが進んで、世の中に使われるようになったということなのでしょう。複合研の隣のブースにもスプレーコーターのロボット、産業ロボットですね、が展示されていて「こんな展示はいままでなかったなぁ」という思いで見ていました。

そして、何となく人通りが少なく、ずいぶんと人の出が少ないねという感じがしたのです。延べの来場者数も恐らく初めての大幅な減少となったのではないでしょうか。端的に言えば、ナノテクノロジーというキーワードで人を集める時代は終わったんだなぁと感じました。それはナノテクノロジーが廃れるということではないのです。ナノテクノロジーは社会に実装されて、当たり前の技術として世の中にあるという時代の幕開けなんだなと思ったのです。あと数年もすると我々はナノテクノロジーの展示会ではなく、個別の商品に対応した展示会に出展することになるのかもしれません。

畠 賢治


二つのプレス発表

2018年3月19日

nano tech 2018に合わせて2件のプレス発表を行いました。

一つはSGOINT(すごいん)という耐熱フッ素ゴムのシーリング材です。これはCNT複合材料研究拠点(複合研)から初めて世の中に出すもので、従来産総研で研究開発してきたものとは一線を画しています。社会に製品として問うことを前提にして行っている製品開発で、今年の9月に販売開始を予定しています。

この製品の設計、サプライチェーンの整理、マーケティング活動、品質保証など、世の中に製品を送り出すために必要なことを複合研でデザインして、皆で協力して、上市へ向けて進めてきました。私にとっては何もかもが新しい経験なんですけれども、幸い私の周りにはプロフェッショナルばかりいるので、何とか皆で力を合わせながら順調に開発を進めています。私自身は大いに勉強させていただいています。

このような形で研究開発ではなくて、製品開発に初めて携わらせていただいていますが、これはすごく楽しいものですね。大変気に入りました。もちろん論文とか、インパクトファクターとか、学会とかとはまったく違います。やはり技術を社会に還元するという上で、最も分かりやすい、価値のある活動の一つなのだなぁと改めて認識しました。

もう一つのプレス発表はカーボンナノチューブを使った電磁波コーキング材に関するものです。これは昨年発表した電磁波遮蔽塗布インクの開発の続きです。塗布インクのプレス発表をした後、電磁波関係の企業の方々と沢山お会いして、皆さんの困っていることを抽出したところ、様々な隙間からの電磁波漏れが一つの課題になっているということが分り、今回のコーキング材というものを開発するに至りました。実はこのようなコーキング材は、十分な性能のものが世の中にあまりないというなかなかユニークなものなのです。新しい市場を掘り起こすことに期待しています。

周りの方々と共に、私の持てる力のすべてを尽くして、できるだけ良い製品を作ったつもりですけれども、唯一わからないこと、そして一番大事なことが、これが本当に売れるの?ということです。

当初はこの製品開発にそれほど投資はいらないだろうと思っていたんですが、いざ蓋を開けてみるとやはり量産する上でのいろいろな課題があって、それなりの設備投資をしなくてはいけないこともわかり、ますます製品が売れなくては困るとの思いを強くしています。いずれ製品がバカ売れして、皆の事業を支えてくれることを願ってやみません。

 製品展示の様子

畠 賢治


nano tech 2018で嬉しいサプライズ

2018年3月13日

2月14日から16日までお台場の東京ビックサイトで開催されたnano tech 2018にCNT複合材料研究拠点(複合研)として出展しました。

複合研のブースは、産総研のブースから離れたところに設けられた独立したブースで、しかも小さなブースだったんですけれども、なぜか初日に産総研の中鉢理事長が視察に訪れてくれたのです。そして、同じ初日の午後には日本ゼオンの田中社長、そしてサンアローの時宗社長が相次いでブースを訪れてくれました。なんと奇しくも複合研に関係している3機関のトップ3人が皆ブースに足を運んでくれたのです。その偶然にびっくりしましたが、とても嬉しい驚きでした。

複合研のブースでは、皆が総出で、出ずっぱりで、一生懸命宣伝活動をし、本当に良い出展となったなと感じています。

 ブース展示の様子

畠 賢治


未来はすぐそこに

2018年2月28日

前回、未来の研究というものを考えたところで、いや、今すでにそれに近い研究をしているところがあるんだ、と思い出しました。

その研究分野というのは半導体分野です。まだAIを使うところまではいっていないですが。半導体を作る時はクリーンルームの中で微細加工をするのですが、時と場合によっては数百にも上る工程を経なくてはいけないのです。そのため、その期間は長い場合は1カ月以上、費用も1ロット1千万円以上というものです。つまり、1回実験をすると1千万円以上かかるということです。そこで半導体分野の実験では「SPICE(スパイス)」というソフトウェアを使って、まず大凡の設計をして、それでいい特性がでると予想される構造が発見されて初めて実際にデバイスを作ることになります。こういったことは、まさにAIが得意とするところで、いつかはAIがシミュレートして、そしてAIがデバイスを作るということになるのでしょう。

このことから面白いことが見えてきます。つまり、実際にデバイスの設計をしている人はモノづくりには全く関わっていない、あくまでのデバイスの設計者であるということですね。逆にいうと設計したとおりのモノができるというだけ半導体の製造プロセスが洗練されていて、再現性が高く、技術として確立したものだということですね。

つまり、モノを制御する力が十分に強くなると、実際の実験というのは人によって行われなくなって、機械がオートマティックにこなすようになって、人間はあくまでも物事をデザインするということが研究になってくるということなのでしょう。ある意味、究極のモノづくりをしているのだけれど、関わっている人間は何もモノづくりをしない、というとても不思議な状況になってきます。

研究の世界だけでなくありとあらゆる現場でそういった現象は起きているように思えます。ある意味非常に皮肉な状況である気がします。たとえば機械加工ひとつにしても、昔は職人の技に頼っていたのですが、今ではNC旋盤ひとつで自動的に出来てしまうといったことです。

私自身は本当に泥臭いモノづくりに深く携わっている人間です。逆に言えば、それだけモノを制御する力が弱い分野で、何とかモノをより制御しようとしているのだと思います。そんなことを考えながら通勤しています。

畠 賢治


未来の研究と研究者

2018年2月20日

前回、昔の論文と今の論文の違いを描いたわけですが、ついでに未来の研究や論文がどうなるのか考えてみましょう。

未来の研究者がビッグデータとビッグデータを解析するAIを使いこなして研究をすることは、ほぼ間違いないことと思います。そのときに研究がどうなっていくのかを考えると、恐らくこのようになるだろうなという予想があります。

研究者がパラメータをX1、X2、X3……と指定し、評価のデータにもY1、Y2、Y3……と指定して、実験装置のスイッチを入れる。すると各装置につながったAIが自動的にパラメータを割り振って、評価をこなし、自動的にデータが生成されて、XY間の相関もAIが考えうる限り可能な全てのグラフを自動的に書いて、そして面白そうなものを抽出していくということになります。場合によってはその相関が現れたパラメータ同士のメカニズムも過去の様々な文献を読み込んだAIが「こういうメカニズムではないか?」と類推するかもしれません。

そうすると研究者いったい何をするのでしょうか?

AIが勝手に研究をしているという状態になってしまうかもしれません。そういう風に考えると論文執筆も然りで、論文の構成を標準化してしまえばAIが論文を書くということもあながち不可能ではない気がしてきました。いやはや未来の実験室というのを想像すると面白いものですね。

研究者という職業は生き延びられるのでしょうか。とは言いつつも、AIを使いこなす形で研究者は絶対存在するとは思っています。ただ、今の論文執筆と、昔の論文執筆が全然違うように、未来の研究は今とは全くと違うのだろうなとは思っています。

畠 賢治


論文執筆の今昔

2018年2月5日

センター長になってからは基本的には論文からは手を引いていたのですが、久しぶりに論文執筆を手伝うことになりました。といいますのも、一流の論文を書くスキルを若い人に伝えてゆきたいと思っているからです。

「あぁ今日は久しぶりに論文だ」と思いながら産総研に出勤する途中、そういえば昔の論文執筆はこんな風だったなぁ...と思い出しました。私の頃はまだコンピュータは世に出たてで、グラフを書くのも、実験装置から出てくるデータは手書きでプロット、対数表示にするときはまた対数グラフにプロットし直し、という感じで論文を1本書くということがともかく手間隙のかかるものでした。

走査型顕微鏡の画像をコンピュータの画面に出して、それをカメラで撮って写真を現像に出していました。そのため研究室には専用のカメラと三脚とフードがあって、何百枚もの写真を持っていました。部屋中に撮影した写真を貼って、それをいろいろな実験軸で並べ替えては傾向を見るということをしていたことが思い出されます。今でしたら、ボタン一つ押すだけで終わってしまうことですが。

論文1本を書くのも今とは比較にはならないほど手間隙がかかったものですから、論文1本の価値もすごくあったように思います。おそらく何年もかけて実験データを取ったと思われる何十ページにもわたるような大論文が一杯ありましたし、また、そういった大論文を何週間もかけて読み込むということもしていました。

しかし昨今はコンピュータの進歩によってすごい勢いで何もかもが簡略になり、どんどん実験データを排出して、そのデータの関係性をグラフ化するときもボタン一つでどんな種類のグラフでも書ける時代になり、そこへインターネットの発達でどんどん新しい学術誌が出て、まさに論文バブルの様相です。私自身、自分が関係している学術雑誌の名前すら覚えられない状況です。論文の数がべらぼうに増えたのは間違いないのですが、読むほうの人間の時間が増える訳ではないので、論文1本当たりの価値は相対的に下がっているのでしょうね。そんな気がします。

そうはいってもその論文によって若い研究者は職を得たり、職を得なかったり、昇進したり、昇進しなかったりするので、一人一人の研究者にとっては論文を書くことには極めて大事なことで、そこに少しでも貢献できたらよかれという気持ちで論文執筆のお手伝いをするのです。

畠 賢治


新しい地平を拓く人

2018年1月25日

昨年の話になりますけど、ふとしたことで筑波大学の山海嘉之教授の講演を聞く機会を得ました。山海教授と言えばロボットスーツHAL®で有名ですし、サイバーダイン社の創業者としても有名な方です。山海教授は文部科学省のプログラム「次世代アントレプレナー育成事業(EDGE-NEXT)」を手掛けていて、そのプログラム主催のシンポジウムに押しかけていったという訳です。

初めて聞く山海教授の話は本当に型破りで、こんなに素晴らしいイノベータが日本にいたんだ、と蒙が啓かれました。講演を聞いて一瞬で私は山海教授の大ファンになるとともに、深い敬意の念を抱きました。山海教授がシンポジウムで話した内容と全く同じではないのですが、1時間程度の講演がYou Tubeで公開されています。関心のある方はこちらをご覧になってください。

日本にも本当に素晴らしい方がいるんだなと感心し、興奮しながら帰路に就いたのです。

 

日本記者クラブ 山海嘉之教授会見(1:28:22)

https://www.youtube.com/watch?v=MZukGX1IBzc

畠 賢治


航海図を描く

2018年1月16日

新年のご挨拶で「今年は船長になる」と言いましたが、私自身の性分といいますか、私の基本的な仕事というのはフレーマーであり、フィクサーであり、そして井戸掘り屋なのです。

どういうことかと言いますと、しかるべき未来を描き、そこに至るための方策や戦略を立て、そして組織やシステムを作り、スタートボタンを押すというのが、私が最も得意とする仕事なのです。なので、順風満帆で進む船の船長というのは実はあまり性分に合っていないのです。きっと退屈して死んじゃうかもしれません。

だからという訳ではないのですが、今年も何か新しい試みを少なくとも一つはしていくことになると思っています。でも、正直それが何なのかはまだ見えていないのです。

より多くの方々との融和・融合を目指す、より多くの方々との仲間づくり、といったことへ向けた大学との連携、あるいは、我々自身が集団としての力をより高めていくための人材育成の施策といったあたりがキーワードになるのかな、と思っています。

なんでこんな曖昧なことを申し上げるかというと、はっきりと未来のビジョンが見えないと全く動かないのです。なので、こういったキーワードを基に未来のビジョンを展望されることを待っているのです。つまり、時として待つのも仕事のうちなのです。

畠 賢治


新年のご挨拶

2018年1月9日

あけましておめでとうございます。

長い休みが明けて、いよいよ今年も仕事が始まりました。今年の立ち上がりは例年になく緩やかです。

昨年はいろいろな意味で激動の一年だったのです。国家プロジェクトが終了するのにともない技術研究組合単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)が解散し、代わりにカーボンナノチューブアライアンス・コンソーシアムや、日本ゼオン・サンアロー・産総研カーボンナノチューブ複合材料研究拠点を立ち上げ、あっという間に一年が過ぎ去りました。

今、それらが非常にスムーズに動いているので、今年は比較的穏やかな一年になるのではないかと思っています。たとえて言えば、出帆の準備を整えて操船の難しい港を後にした船が、いよいよ広い外洋を風に乗って帆走する年となるはずで、船長である私は操舵席でのんびりと構えていられるのではと期待しています。

このように私としては穏やかなのですが、外からはスピーディに進む物事や、いろいろな研究成果がよく見えるようになると思っています。また、我々の研究成果が本格的に商品につながってゆく年となるはずです。そんな意味で非常に楽しみな一年です。

昨年一年間は、一緒に働いてくださっている企業の皆様方とセンターの皆様とともに、力を合わせて大きなトラブルもなく過ごすことができました。今年もまたよろしくお願いします。

畠 賢治


年末のご挨拶

2017年12月28日

最後の更新の内容が随分と前のことになっていますが、これは偏に担当者と私との間の報・連・相が不十分なのでこういう情けないことになってしまっています。

さて、話は変わりますが、年末ですね。今日26日が私の仕事納めとなっています。一年間を振り返ると技術研究組合単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)が終了し、国家プロジェクトが終了し、カーボンナノチューブアライアンスコンソーシアムが立ち上がり、様々な企業との共同研究が始まり、本当に大きな変動の一年でした。

しかし、手掛けていることがほとんど順調に推移し、また、次に向けた弾込めも年末になって相次いで大きな成果を出し始め、来年が本当に楽しみになってきています。

来年も引き続き大きな変革の年になると予想しています。付け加えるなら、そのような勢いでここ10年間、毎年々大きく変わってきているのですが、それでもなお本当の意味でのカーボンナノチューブの事業にはなっていません。モノを実用化していくということはとんでもなく大変な事なんだなぁということを改めて噛みしめています。

それでは皆様も良いお年をお迎えください。

畠 賢治


企業の経営哲学

2017年12月27日

前回の後継者という話で思い出したのですが、先ごろ東レ株式会社(東レ)の阿部代表取締役副社長と半日をともにし、少人数で会食の席に着く機会をいただきました。

東レは世界の材料化学企業のなかでも極めて特異で、独自の技術をもって長年にわたり持続的に発展している素晴らしい企業です。東レの研究哲学は代々の経営者に脈々と受け継がれており、東レならではの研究哲学というものが世代を超えて継承されています。それは、四半期ごとに収支を気にする短絡的な経営とは真逆の方針です。

そういった企業の副社長が、東レで材料開発が進められて実用化されるまで最短で7年、普通はもっともっとかかるとおっしゃり、炭素繊維を50年間かけて飛行機に載せ、今では車にまで載せようとしている東レの長い歴史とその意気込みについて語ってくださいました。最後に、「材料開発とっては一声10年」というお言葉をいただき、最近企業から多額の研究資金をいただき、まさに企業の死活を担うような研究開発をさせていただいている身で、すぐに、できるだけ早急に、実用化して資金を回収しないといけないと焦っていた私にとって、ガツンと頭を殴られたような気がしました。

阿部代表取締役副社長の経歴を眺めると、彼はかなり早い段階で前任者から白羽の矢を立てられて、計画的に育成されているということが見て取れます。そして、「阿部副社長に意中の後継者はいるんですか?」と聞いたところ、やはりしっかりと考えてすでに対応をしていらっしゃるようでした。不思議なことに篠原先生とお会いした時にも東レの話になり(篠原先生は東レと長きにわたり良き共同研究を行っている関係です)、「私の知っているある人が次期副社長になるんじゃないの」と聞き、へぇ~と思ったものです。

与太話を長くしましたが、篠原先生が私にくださったアドバイスで後継者をということでしたが、いずれにしても持続的に発展している企業はしっかりと世代を超えるバトンタッチを考えているものなのだなと感心した次第です。

畠 賢治


篠原先生とのひととき

2017年12月21日

この時期(10月)はセンターの年度ごとの評価の時期です。我々のセンターは名古屋大学の篠原先生に顧問の一人をお願いしています。今年は名古屋まで出向いて行って、篠原先生にセンターの今年の活動をご報告申しあげました。

篠原先生はとても多忙な方で学会も自分のプレゼンにプラスアルファのお時間おられるだけのことが多いので、初めは1時間ぐらいで終わるのではと思っていたのです。ところが、「畠さん、随分元気そうだね」、というところから始まり、瞑想や、右脳や左脳の働き、臨済宗や曹洞宗にまで話が拡がり、センターの説明を始めるころにはすでに1時間が過ぎ去っていました。そしてなんと夕方まで、ほぼ半日4時間近く、色々な話をさせていただくことができ楽しく、有意義な時間を過ごさせていただきました。ありがとうございました。

その場でお褒めの言葉をたくさんいただき、「組織というのはリーダーが大事だね」と言われました。そしてカーボンナノチューブが本当に花咲くのはこれから先で、畠さんが引退してからなんだから、自分の後継者をしっかり育てるようにという非常にありがたいアドバイスをいただいて帰路につきました。

さて、後継者ですか、どうしましょうか。私も飯島先生の後継者のつもりなのですが。そういう意味で次の世代へのバトンタッチも考えなくてはいけないです。 

畠 賢治


卒業生の来訪

2017年12月14日

9月のことですが、以前センターでポスドクをしていた卒業生の早水君が学生さんを連れて産総研にきました。早水君は我々のところにきていただいた2番目か3番目かのポスドクで、ごくごく初期のメンバーの一人です。今では東京工業大学の准教授として立派になっています。久しぶりにお目にかかると、すっかり大学の先生らしい落ち着きと立ち居振る舞い(おじさんになったとは決して申しません)を身に付けられていました。我々のところの装置を譲り受けたお礼にとこられたのです。 

当初はあまり時間を準備していなかったのですが、せっかくの機会なので学生さんの前でいろいろとお話をしていたところあっという間に時間が過ぎてしまいました。後日もらったメールには「畠さんのオーラが凄かった」という学生さんの感想があったんですが、そうなんでしょうか。ちょっと嬉しく思いました。

 畠 賢治


ナノカーボン実用化推進研究会の講演

2017年11月22日

去る9月15日に開催された第9回ナノカーボン実用化推進研究会(研究会)の様子を、感想を交えて少しご紹介します。この研究会は、ナノカーボン材料の実用化研究を進めている、主として企業の方々のために、開催している会です。そのため、聴衆も発表者も企業の方が多くなっています。

一般的にいうと企業の方のプレゼンテーションは、様々な守秘義務のために、宣伝的なものや、中身が薄いものになりがちです。しかし、ナノカーボン実用化推進研究会の場合、講演者の方々が相当に頑張って会社との交渉をしてくださっているようで、「ここまで話していいのだろうか?」と思うようなところまで話をしてくださるのです。私も大変興味深く聞かせていただいていますし、また、勉強にもなります。

数年の間をおいて同じ企業がプレゼンテーションをしても、その数年間の着実なる進歩や新しい発見等を聞くことができるので、そのような意味でも非常に貴重な会となっていると考えています。例えば、フロンティアカーボン株式会社の大坪氏に講演いただきましたが、これまでにもフラーレンに関する講演は何度か聞いたことがあるのです。しかし、今回、フラーレンが樹脂の絶縁破壊を阻害する効果があるという新しい機能が話題となりました。これはフラーレンならではの面白い機能であり、これから大きな用途が広がってゆくのではないかとワクワクしながら聞きました。

また、NEC株式会社IoTデバイス研究所の沼田氏や帝人株式会社マテリアル技術本部ソリューション開発センターの大道氏にも講演いただきましたが、商品を上市していたり、研究フェーズから開発フェーズに移行して量産技術を開発していたり、ナノカーボン材料の研究開発が着実に前進しているという感触を持ちました。

そんなこんなで、楽しい一日が終わり、早くも次回第10回が楽しみな次第です。

 畠 賢治

 


ナノカーボン実用化推進研究会のこと

2017年11月9日

昔の「日々是研究」もそうでしたが、ここでは-ingがついていなくて、備忘録の代わりに過去の出来事を振り返りながら書いていることが多いのです。

珍しく先の話になりますが、9月15日に第9回ナノカーボン実用化推進研究会が開催されましたが、きっと関谷氏が頑張って、いずれその時の写真がホームページに掲載されるでしょう。

この会もすでに9回を重ねているのですが、毎回100名から150名もの方々に参加をいただき、すっかり定着したように思えます。これまでは当センターとナノテクノロジービジネス推進協議会(NBCI)との共催でしたが、今回から、プラスチック成形加工学会にもご参画いただくこととなりました。

この会は、ナノカーボン材料の実用化を目指す企業の方々が一堂に会する日本で唯一の場なので、ぜひとも永く続いていけるようにすることが、一つ、私のミッションであると思っています。というのも、産総研の研究センターというのは時限付きなものなので、センターに負んぶに抱っこでは、永続的にこの会が開かれることにはならない訳です。そういうこともあって、学会と合流してお互いにwin-winの関係を築きつつ、学会のなかでひとつのセッションもしくはシンポジウムとして開催されるのが望ましいのです。

しかし、どうも実用化を目指している企業の方々と、ナノカーボン材料のアカデミアの研究者というものは、あまり興味関心が重ならないらしいのです。そのようななかで、我々にとって最も親和性の高い学会はプラスチック成形加工学会であるということで、そちらのほうに身を寄せることとなりました。

ここに至るまで長きにわたりご尽力いただいた関係者の皆様に御礼申し上げます。

 畠 賢治

 


ホームページのリニューアル

2017年10月25日

今、センターに来てもらっている関谷氏、以前月刊誌PENの編集長をしていた、の全面的な協力を得てセンターのホームページのデザインを大きくリニューアルしました。おかげさまでものすごく見た目はかっこよくなりました。中身はこれから少しずつ充実させてゆきたいと考えています。

ホームページをリニューアルしている真の目的は、例によって、音頭を取っている私にも良くわからないのですが、今までの経験から考えて、大事な意味があるのだと思っています。

恐らくは、これから、我々のセンターは日本のカーボンナノチューブの実用化の要、日本の中心拠点を目指すということになってゆくと思うのですが、そこで社会との接点の一つとなるのがこのホームページということなのでしょう。

そういうことから言うのならば、我々のセンターが、もしくは産総研のカーボンナノチューブの研究が、カーボンナノチューブの発見者であり、我々の恩師、師匠でもある飯島博士に導かれて、20年をかけて蓄積してきた力というものをこのホームページから発信しなくてはいけないのかもしれません。

そういう観点からまだまだ不十分だなぁとは思うのです。さすが関谷氏はこのような仕事のプロフェショナルなので、プロの作るものはやはり違うなぁと感心しつつも厳しいコメントを連発している畠なのでありました。

ホームページのシステム構築には(株)つくばマルチメディアにご協力をいただいています。

 

 畠 賢治

 


ご挨拶

2017年9月6日

こんにちは久しぶりです(一部の方には)。

この度ナノチューブ実用化研究センターのホームページを全面的にリニューアルしました。それに伴い長らく中断していた私の「日々是研究」を、「声 日々これ研究」とタイトルを改めて再開したいと思います。

時間の経つのは早いもので、最後に日々是研究に書き込みをしてから約6年もの月日が経ちました。その間に周りの環境や研究内容や私自身、ありとあらゆるものが激変しましたが、カーボンナノチューブの実用化の研究をしていることは相変わらずで、全く何も変わっていません。

いや、昔よりも益々多くの仲間を得て、日本にカーボンナノチューブの産業を立てるべく力を合わせて邁進しています。

その状況を再開した「日々是研究」のなかで紹介できればと思っています。

では皆様またお付き合いのほどよろしくお願いします。

 畠 賢治